ブログ

ブログ

2017/09/28

【2017年版】うつ病とは

はじめに

うつ病とは、何でしょうか?
単なる気分の落ち込みと、どう、違うのでしょうか?
単なる「なまけ」「甘え」と、どう違うのでしょうか?

この記事では、このような疑問にお答えしていきます。

うつ病の診断や、治療については、
こちら↓
【2017年版】うつ病の診断 (準備中)
【2017年版】うつ病の治療 (準備中)

※この記事は、2017/09/28 Ver1.0です。

編集方針

精神科医として、うつ病の患者さんと向き合う中で、
うつ病に関する「使える」基礎知識を効果的にお伝えすることが、
いかに早期回復に重要か、日々、痛感しています。

この記事、及び関連記事では、
まず、「正しい知識」を、信頼できる原典から引用・翻訳・編集し、
それに筆者が解説を付し、「使える知識」に変換する、という編集方針を取っています。
また、最終的な結論を、Do、Don’tの形式にまとめています。
「使える知識」とは、得たその瞬間から行動を変えることができる知識だからです。

また、「正しい知識」とは、永遠不変の真実とは異なります。
新しい知見が蓄積されると、「過去の知識」になります。
よって、不定期ですが、記事の更新を行います。

読者として想定するのは、以下のような方々です。

①:うつ病の当事者
・初めてうつ病になった、あるいは、うつ病が長引いていて回復の糸口を探している方
・そのご家族

②:当事者ではないが、「使える」基礎知識を求めている方
・療養の現場で、当事者のサポートをしている方(看護師、臨床心理士、作業療法士、精神保健福祉士等)
・職域で、当事者のサポートをしている方(直属の上司、職場の保健担当の方等)

※参考文献
UPTODATE(定期的にエビデンスにもとづいて更新している臨床医学の英文電子教科書):うつ病の患者配付資料
アメリカ精神医学界ホームページ
川上憲人:世界のうつ病、日本のうつ病−疫学研究の現在.医学のあゆみ 219(13)、925-929、2006

正しい知識5項目と、その解説(使える知識)

①:うつ病とは、日常生活で体験する悲しみをはるかに超えた、医療の対象となる状態です。

解説
愛する人の死や、失職、別れなどは、耐え忍び難い体験です。
悲嘆(grief)と呼ばれますが、
そのような状況において、悲しみの感情を抱くことは、正常な反応です。

この悲嘆と、うつ病を発症することは、同じでしょうか?
確かに、共通の要素もあります。
痛切な悲しみや、通常の活動から遠ざかること、など。
しかし、重要な点で異なります。

悲嘆では、つらい感情は波状に押し寄せ、
しばしば、失った人や出来事に対する好ましい思い出も混在します。
しかし、うつ病では、気分は二週間以上に渡り、一貫して低下したままです。

また、悲嘆では、自尊心は通常、維持されます。
しかし、うつ病では、自分の無価値感や自責感が強烈です。

とは言え、悲嘆を引き起こす体験が、
同時に、うつ病を引き起こす場合もあります。
この場合、悲嘆はより重篤で、長引く結果となります。

このように、悲嘆とうつ病は、
共通する部分もあり、同時に起きる場合もありますが、
区別することが重要です。

なぜなら、悲嘆は医療の対象ではありませんが、
うつ病は、医療の対象だからです。

Do:
悲嘆とうつ病を区別し、
悲嘆には、家族や地域社会のサポートを、
うつ病には、正確な診断と治療を用意する。

Don’t:
悲嘆を医療で対処しようとする。
うつ病を、家族や地域社会のみでサポートしようとする。

②:うつ病とは、「なまけ」「甘え」とは異なる、医療の対象となる状態です。

解説
健康な方が、スイスイ自転車を運転している状態だとすると、
うつ病の方は、「チェーンが外れた」自転車にまたがって、
立ち往生している状態に、例えることができます。

やらなきゃと思うのにやる気が出ない。
カラダはどこも悪くないのに、カラダが動かない。

この、うつ病の典型的な状況は、

ペダルを踏む意志もあり、実際、ペダルも踏んでいるのに、
そしてパンクもしていないのに、自転車が動かない・・・、

まさに、これと同じ状態なのです。

自転車なら、チェーンが外れていることは、
見れば一目瞭然です。

その自転車で立ち往生している人に、
「なまけている」「甘えている」とは、
誰も、言わないでしょう。

どうやったらチェーンがかかるか、
一緒に手伝ってくれるでしょう。

でも、うつ病の場合、
それが、とてもわかりにくい。

だから、ペダルを踏む人間が
「なまけている」「甘えている」と、
周囲だけでなく、本人自身も、思いがちです。

ところが、人にとって、
その「チェーン」がどこにあるのか、
かなり解明されてきています。

脳という臓器の、
左側背外側前頭前野という部位が、その候補です。
その機能低下が、
うつ病と密接に関連していることがわかってきました。

だから、うつ病は、
運転者の怠惰や甘えではなく、
脳の機能低下という、いわば、チェーンが外れた状態であり、
医療の対象となるのです。

ただ、うつ病が長引くと、
状況が複雑になってきます。

運転者も、人です。
なまけたくもなるし、甘えたくもなります。

チェーンが外れた自転車にまたがって、
本来なら、
チェーンをかけ直すための努力を払うべきところを、
しない。

その状況は、ありえます。
かつ、うつ病が長引けば長引くほど、
そうなりがちです。

その時、
周囲が、運転者に、
おまえはなまけている、
甘えている、と非難する場合、

一部、当たっています。

Do:
「なまけ」「甘え」と、うつ病を区別し、
前者には、治療へのモチベーションアップのサポートを、
後者には、医療としての、正確な診断と治療を用意する。

Don’t:
「なまけ」「甘え」を、うつ病の症状として、黙認してしまう。
うつ病を、「なまけ」「甘え」と叱責する。

③:うつ病は、その長引く症状により、その人の日常生活を営む能力を障害します。

解説
うつ病が日常生活に与える障害は、
決して、なまやさしいものではありません。

障害の程度に応じて、次のように整理するとよいでしょう。

A:仕事や家事はできるが、パフォーマンスが落ちている
B:仕事や家事は困難で自宅療養となるが、入浴などのセルフケアはできる
C:セルフケアも困難で、ほぼ臥床している
D:自殺企図のリスクが高く、自宅療養も困難で、入院を要する

Aの時点で無理をすると、病状が急速に悪化します。
休職や、親族のサポートの要請、家事のヘルパー利用など、
検討が必要です。

Cは、本人をサポートする家族の負担が大きくなります。
その場合も、入院の適応となります。

Do:
日常生活の障害の程度に応じて、
ためらうことなく、応援を要請し、
必要な治療環境を調整する。

Don’t:
一人で抱え込む。

④:うつ病の診断には、次の9つの症状のうち、5つ以上の症状が、連続した2週間、ほぼ一日中、ほぼ毎日、認められることが必要です。

解説
icon-check-square-o 抑うつ気分
icon-check-square-o 多くの、または全ての活動において、興味や喜びを失う
icon-check-square-o 食欲、または体重の変化
icon-check-square-o 不眠、まはた過眠
icon-check-square-o 落ちつかなさ、または動作の緩慢
icon-check-square-o 疲労感、または意欲の低下
icon-check-square-o 無価値感、まはた過剰な自責感
icon-check-square-o 集中力の低下
icon-check-square-o 死や自殺について繰り返し考える

これは、DSM-5という診断基準による、
大うつ病性障害(major depressive disorder)の診断基準の一部です。
いわゆる「うつ病」とは、現在では、この障害のことを指しています。

詳しくは、こちら↓
【2017年版】 うつ病の診断 (準備中)

なぜ、二週間なのでしょうか?

この点については、精神医学界でも、
根拠が乏しい、恣意的だ、などの批判もあります。

しかし、診断の全体像を見失うほど、画一的に適応しなければ、
この、二週間という期間は、臨床的には妥当かと、
筆者は、判断しています。

臨床感覚をそのまま表現すると、
二週間、ストレスフルな状況が続くと、
心身へのダメージは、一段、進む、
となります。

先ほどの、自転車の例えなら、
ついに「チェーンが外れた」状態に至る、
ということです。

二週間、という期間は、
次の連想を引き起こします。

抗うつ薬の効果は、発現に最低でも
二週間程度はかかる。

これは、抗うつ薬の作用により
遺伝子の発現と産生されるたんぱく質に、変化が生じるまで、
その程度の時間を要するから、とも説明されます。

この逆のプロセスが、
「チェーンが外れる」時に起きていることが
推測されます。

また、人は、絶飲食の中、生理食塩水の点滴一つで、
最低限の生命機能を維持できるのは、二週間程度、です。
それを超えると、腎臓、肝臓などの破綻が始まります。

つまり、うつ病に限らず、人の生命システムは、
ストレスが二週間程度続くと、
大きく、そのモードをシフトさせるのです。

このシフトが起こると、
「気合い」でなんとかなるレベルを超えてしまいます。

このシフトを捉えて、精神医学は、
うつ病、と診断するのです。

Do:
うつ病を疑う症状を認めた時、
二週間以内に、受診行動を起こす。

Don’t:
うつ病を疑う症状を認めた時、
二週間を超えても、
気合いでなんとかしようとし、
チェーンを完全に外させてしまう。

⑤:うつ病は、全世界で最も頻度の高い精神疾患です。

解説
2015年、世界保健機関(WHO)はその推計報告で、
全世界で最も頻度の高い精神疾患として、うつ病を挙げています。

世界の全人口の4.2%、3.2億人がうつ病にかかっていると推計しています。
また、全世界の非致死的な健康損失の原因として、うつ病が最大と指摘しています。

その同じ推計報告では、
日本の全人口の4.2%、506万人が、うつ病にかかっていると推計されています。
2008年、厚労省の患者調査では104万人です。
受診していないが、うつ病にかかっている人が、多数いると推測されます。

日本のうつ病の生涯有病率(一生の中でうつ病にかかる人の割合)は、3〜7%との報告があります。
これは、換算すると、14〜33人に一人の割合です。

平成25年度、厚労省は、医療計画に盛り込むべき疾患として、
従来の4大疾患(がん、脳血管障害、急性心筋梗塞、糖尿病)に、
うつ病を含む精神疾患を加えた、5大疾患を指定しました。

ちなみに、平成26年の厚労省の患者調査では、
脳血管障害の患者数は、118万人です。

つまり、世界においても、日本においても、
不幸なことに、うつ病は、「ありふれた疾患」になっています。

誰しも、「自分はそんな病気にはならない」と思います。
しかし、400万人が、そう思いつつ、うつ病になっている可能性があります。

自分もうつ病になるかもしれない。
その認識を持つことのメリットは、2つあります。

・早期発見が可能となる。
・それが自分であっても、他人であっても、うつ病を受け入れやすくなる。
うつ病であることの受容は、適切な対処の、最初の、かつ最大の、一歩です。

Do:
うつ病とは、自分も、家族も、同僚も、かかるかもしれない疾患と認識する。
そして、早期発見と対処に躊躇しない。

Don’t:
うつ病とは、自分も、家族も、同僚も、絶対にかかることはない疾患と盲信する。
そして、早期発見の機会を逸し、発症後も、うつ病であることを否認し続ける。

⑥:準備中