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2017/11/13

心療内科・精神科・神経内科:違いと選び方



心療内科
精神科は、どう違うのか?
さらに神経内科という診療科もあるようだが、どう違うのか?
メンタルな不調をかかえて、受診を検討する際、どの科を受診すればいいのか?
不馴れな方の場合、とても悩むところでしょう。
以下の記事では、その疑問を明快に解決します。

標榜科、それ自体は何も保証しない

心療内科、精神科、神経内科などの名称は、医療機関が医療法等にもとづいて広告できる診療科の名称であり、「標榜科」と言われます。

当然、心療内科を標榜するには、それなりに心療内科の経験を積んだ医師が標榜できるはずだ、
精神科しかり、神経内科しかり、と多くの方は考えることでしょう。

ところが、実情は異なります。
その診療科のキャリアをつんでいなくとも、申請しさえすれば、標榜できるのです。
これを、自由標榜制、と言います。

だから、極端な話、
外科手術の体力がなくなった外科医が、手術から引退し、
何の修練もつんでいない心療内科を標榜して開業することが、可能なのです。

そんなバカな…とお思いかもしれませんが、
それが、自由標榜制なのです。

もちろん、何も経験がない診療科を標榜して開業しても、
すぐに口コミで経営は立ち行かなくなるでしょうから、
そんな無謀なことをする医師も少ないでしょう。

ただし、次のことは、知っておく方がよいでしょう。

ある診療科を標榜している、ということ、それ自体は、
その診療科に関する実力を、何も保証しない、ということ。

専門医という資格で見極めよう

では、自分が受診すべき医療機関を、どのように選べばよいのか?

結論は、
標榜科で選ぶのではなく、
その医療機関に所属する医師がもつ、専門医の資格で選ぼう、
となります。

つまり、自分が困っている症状や状況を、一番、適切に診療してくれる医師は、
どの専門医なのか、それを知る必要があるのです。
(どの標榜科なのか、ではなく。)

最近はほとんどの場合、医療機関のホームページの医師紹介のセクションで、
どのような専門医資格を保有しているか、記載されています。
それを参考にして、判断するとよいでしょう。

もちろん、専門医だからといって、その医師の実力や人柄は、千差万別でしょう。
だから、専門医であることが、自分にとって最高の診療を保証することには、なりません。
ただ、専門医とは、その診療に関する社会的責任を担う学会が、一定の基準を満たしたと認定している医師なので、
自由標榜制のもとでの標榜科だけで判断するよりは、ハズレが少ないことは、期待できます。

では、メンタルな不調に関連する、専門医の資格には、
どのようなものがあるのでしょうか?

具体的に、みていきましょう。

どんな専門医があるのか?

心身医療専門医

・日本心身医学会が認定します。平29年9月現在、340名。
・前提条件として、以下のいずれかの専門医を取得していることが必要。

日本内科学会(認定医でも可)、日本精神神経学会、日本小児科学会
日本外科学会、日本整形外科学会、日本産科婦人科学会、
日本皮膚科学会、日本泌尿器科学会、 日本耳鼻咽喉科学会、日本リハビリテーション医学会

・その基本的な実力の上に、さまざまな心身症を診療する修練をつんでいる。
心身症とは、消化器や呼吸器、皮膚など、具体的な臓器に不具合がありつつも、
その病状にメンタルな要素が大きく関与する、一連の疾患を言います。
・一例を挙げます。

消化器系 機能性胃腸症, 過敏性腸症候群, 慢性膵炎
内分泌・代謝系 糖尿病, バセドウ病, 摂食障害
呼吸器系 気管支喘息, 慢性閉塞性肺疾患, 慢性咳嗽
神経・筋肉系 緊張型頭痛, 片頭痛, 痙性斜頸
循環器系 高血圧, 冠動脈疾患, 不整脈
自己免疫・アレルギー系 アトピー性皮膚炎, 慢性蕁麻疹, 関節リウマチ
その他 疼痛性障害, 慢性疲労症候群

 

この資格を持つ専門医に診療してもらうメリットの大きい方は、何らかの身体疾患を持ち、
それに関連して、メンタルな不調を持つ方、でしょう。
・例えば、過敏性腸症候群の症状により、抑うつ気分を自覚する方。内科専門医+心身医療専門医を持つ医師なら、一箇所の診療で、同時にサポートを受けることが可能。
・例えば、関節リウマチの痛みで、不眠となる方。整形外科専門医+心身医療専門医を持つ医師なら、両者とも、しっかり診てもらえるでしょう。
・身体疾患も治療してもらいつつ、メンタルな不調を相談できる、一石二鳥、というわけです。
ただし、精神科専門医を同時に持たない場合、メンタルな不調が重症の際、
対応できない可能性はあります。
心身医学は扱う範囲が広いため、精神疾患を重点的に修練することが難しいためです。
・また、そもそも、この資格を保有する医師が、相対的に少ないです。
同じ理由で、この資格をもって心療内科のみを標榜する医療機関も少ないです。
・心身症は多岐にわたるため、その医師の臨床経験の豊富な疾患を確認するとよいでしょう。
その際、前提条件となっている専門医資格をチェックすると予測がつきます。

心療内科専門医

・日本心療内科学会が認定します。平29年10月現在、118名。
・前提条件は、内科認定医であること。
・受診を検討する際の、専門医資格の捉え方は、心身医療専門医に準じます。
・心身医療専門医とともに、「聴診器をもってカラダを診てくれるお医者さん」です。
心療内科を標榜する医療機関を検討する際、心身医療専門医または心療内科専門医を持っているかどうかは、大きなポイントになります。それらを持っている場合、内科の診療を期待することができます。
・後述する、精神科専門医の資格のみの場合、「聴診器でカラダを診てくれる」ことは期待できません。

精神科専門医

・日本精神神経学会が認定します。平29年11月現在、11204名。
・上述の二つの専門医と比較し、圧倒的に多いことがわかります。
・いわゆる「精神科医」と呼ばれる医師の、臨床能力を担保する資格です。
概ね、高校生から後期高齢者までの、精神疾患全般に対応する臨床能力を持ちます。
・児童のメンタルヘルスや、高齢者の認知症については、最低限の対応は可能ですが、臨床経験の差によって、実力に個人差はあります。
・児童に関しては、小児科出身の児童精神科医が、高齢の認知症に関しては、神経内科出身の認知症専門医が、経験の少ない精神科医よりは、実力を持っている、という場合が多いです。
「心療内科・精神科」と標榜するクリニックのうち、ほとんどは、この精神科専門医の資格のみをもった医師が診療にあたっています。それなのに、なぜ、心療内科を合わせて標榜するのか?業界の実情を率直に述べると、「精神科」よりも「心療内科・精神科」とする方が、受診の敷居が低くなるだろう、という集客上の期待があるからです。まさに、自由標榜制ならではの現象です。

精神保健指定医

・精神保健及び精神障害者福祉に関する法律で定められ、厚生労働大臣が指定する、医師の国家資格です。
・精神科の入院治療では、本人の希望しない入院や、隔離・拘束などによる行動制限を止むを得ず行う場面がありますが、この資格を持つ医師のみに、その判断と指示が許されています。
学会が認定する専門医とは全く異なる意図をもった資格であることがわかります。
・前提条件として、3年以上の精神科実務経験が必要です。
・平27年7月現在、14793名。
受診を検討する際の、この資格の意義ですが、「重症の精神疾患の経験が十分ある」と解釈するとよいでしょう。
・精神科専門医のみで精神保健指定医の資格がない場合、重症の精神疾患の経験が少ない可能性がある。また、精神保健指定医のみで精神科専門医の資格がない場合、軽症まで含めた幅広い精神疾患の経験が少ない可能性がある、と解釈するとよいでしょう。

神経内科専門医

・日本神経学会が認定します。平25年8月現在、5122名。
神経内科は、脳や脊髄、神経や筋肉に原因があり、麻痺や歩行障害などの症状が現れ、検査によって何らかの異常が発見される、そのような疾患を扱います。
・具体的には、脳梗塞、脳出血、パーキンソン病、てんかん、認知症、筋萎縮性側索硬化症などの神経難病を扱います。
精神科が扱う精神疾患とは、大きく領域が異なりますが、てんかんと認知症は、重なります。
・メンタルな不調との関連では、「物忘れがひどくて認知症が心配」という場合に、お世話になる可能性があります。

認知症専門医

・日本認知症学会が認定します。平23年現在で703名。
・前提条件は、以下のいずれかの専門医を取得していることが必要。
日本精神神経学会,日本神経学会,日本老年医学会
日本リハビリテーション医学会,日本内科学会,日本脳神経外科学会,日本老年精神医学会
・認知症の患者数は、2012年で462万人でしたが、2025年には700万人に達すると予想されています。それに比して、専門医の数は圧倒的に少ない状況です。
・日本認知症学会の専門医リストから検索して、受診しようとしても、予約がいっぱいの場合もあるようです。

受診先決定までのフローチャート

以上、メンタルヘルスに関連する専門医資格をみてきました。
この内容を踏まえて、受診先を決定するまでの流れを、状況別にまとめてみましょう。

大前提として、次のようなからだの症状が強い場合、
まずは、内科を受診されることをおすすめします。
頭痛、めまい、耳鳴、嘔気、食慾低下、動悸、胸痛、腹痛、下痢、便秘…
内科の病気ではない、と確認されてから初めて、メンタルによる症状だ、と言えるからです。

これをクリアした後、後述の状況別に、
「〇〇市 〇〇科」とネット検索し、
検索上位の医療機関のホームページを選択し、
医師の専門医資格をチェックする、という段取りがよいでしょう。

興奮が強い場合

大声で叫ぶなどの興奮状態だけでなく、自殺のリスクが高い場合、とにかく目が離せない場合なども含みます。

検索:精神科
確認資格:精神科専門医+精神保健指定医

入院の必要性の判断などは、精神保健指定医の資格がある方が安心でしょう。

認知症を疑う場合

まず、
検索:日本認知症学会 認知症専門医リストより選択する
電話で問い合わせ、初診が可能か、確認する。

予約が難しい場合は、
検索:精神科
確認資格:精神科専門医  で、選択した後、
電話で問い合わせ、物忘れを評価できるか、確認する。

または、
検索:神経内科
確認資格:神経内科専門医 で、選択した後、
電話で問い合わせ、物忘れを評価できるか、確認する。

持病の身体疾患と関連する場合

日本心身医学会、または、日本心療内科学会のホームページより、
心身医療専門医または、心療内科専門医を検索し、選択した後、
電話で問い合わせ、持病の身体疾患に加え、メンタル不調を診療できるか、確認する。

その他の場合

検索:精神科
確認資格:精神科専門医 で選択した後、
電話で問い合わせ、年齢とメンタルな不調の概要を伝え、診療可能か、確認する。

身体症状の「難民」

この記事では、心身医療専門医や心療内科専門医の意義について積極的に評価してきましたが、
実際にその恩恵にあずかっている患者さんは、少ない、という印象を持ちます。

なぜなら、当院でお会いする患者さんの中で、
他の身体科で診療してもらいながらも、身体症状についての不安や不満について
多くの時間を割いて相談する場面が多いからです。

その原因は、心療内科の専門医の絶対数が少ない、という事情が大きいでしょう。
また、精神科医の多くが、身体症状に関心が乏しい、という事情もあります。

身体症状を抱えた精神疾患の患者さんは、
「難民」になるしか、ないのでしょうか。

当院では、身体症状を訴える患者さんに対して、
まずは、内科的に精査が必要かどうか、
常に判断するようにしています。

今までにも、次のような例があります。

■足がむくんでいる場合、甲状腺の機能を疑い内科の受診をすすめる。
■足の筋力低下が進行している場合、内科主治医に連絡して訪問リハビリを強化する。
■持病の喘息が悪化していないか、チェックする。
■糖尿病のコントロールについて療養の指導をする。
■身体症状が、精神症状の身体化の場合、精神療法で扱う。

当院では、聴診器は使わないものの、
心療内科を標榜して恥ずかしくない診療を
こころがけています。

まとめ

「精神科も心療内科も同じだ」とよく言われます。
確かに、既述したような状況では、その通りです。

「心療内科・精神科」と標榜するクリニックのうち、ほとんどは、
この精神科専門医の資格のみをもった医師が診療にあたっているからです。

しかし、心身医療専門医または心療内科専門医の資格を有した心療内科は、別です。
精神科では提供できない内科管理を受けることができます。
一方で、その心療内科は、興奮が強い場合や認知症を疑う場合などは、やや苦手です。

このあたりの事情は、専門医という観点から整理して、初めて了解ができます。
メンタルな不調で受診を検討する際の一助になれば幸いです。