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2017/05/04

うつ病の治し方:感情リテラシー入門②〜イヤイヤとワクワク編


「自分の感情がわからない」という、うつ病の方のための、感情リテラシー入門、その第二編です。
第一編は、こちら↓
うつ病の治し方:感情リテラシー入門①〜愛と悲しみ編

第一編の内容は、次のようなものでした。
⚪️感情リテラシーとは、感情の読み取り表現するスキルである
⚪️感情は、状況⇒感情⇒行動のユニットの中で機能する情報である

特定の状況という刺激

特定の感情という情報の発信

生き残るために必要な行動の発動・促進

⚪️感情リテラシー向上のための具体策
⚪️29種類の感情の、3つのグループへの分類
⚪️愛に関する感情の具体的な整理
⚪️2つのワーク

感情の分類

3つのグループとは、以下の3つでしたね。

愛に関する感情
生存戦略に必要な感情
知性を必要とする感情

この第二編では、「生存戦略に必要な感情」について、整理していきましょう。

生存戦略に必要な感情

この一群の感情は、大きく2つに分けることができます。
それを、この記事では、「ワクワク系」と「イヤイヤ系」と呼びましょう。

ヒトは、ある状況が起きた時、生き延びるために、いつも一つの判断を迫られます。

その状況を、より深く追求した方がよいか?  可能な限り回避した方がよいか?

前者の場合は、「ワクワク系」の感情が発信されます。
その状況をさらに追求する行動が、発動・促進されます。

後者の場合は、「イヤイヤ系」の感情が発信されます。
その状況を回避する行動が、発動・促進されます。

ただし、どちらとも判断がつかない場合もあります。
その場合の感情が、「驚き」「困惑」です。

まず、ここから、始めましょう。

驚き★


【状況】行動・思考のペースが乱される
【行動】その状況がワクワク系かイヤイヤ系か、探索する
【特性】不快とも快感とも判別不能、緊張、興奮した表情(大きく開く目と口)
【コツ】どんなに感情リテラシーが苦手な方でも、日常の生活の中で、この感情を関知する事は可能な場合が多いです。
ここから、はじめましょう。この感情が去った後、必ず、何らかの他の感情に変化して、消失していっているはずです。
「あ、何でもなかったな(安心)」「あ、これは危険だ(恐怖)」「あ、やってくれてたんだ(感謝)」など。
この繊細な変化に注意を向けましょう。その努力が、自分の感情を読み取る力を育てていきます。
困惑(戸惑い)

【状況】驚きと同じ状況、ただし、ワクワク系かイヤイヤ系か判別困難な状況が続く
【行動】思考をやむを得ず続ける
【特性】不快、弛緩〜緊張、救援を求める悲愴な表情

嫌悪★


【状況】生存にとって有害な環境
※この「嫌悪」以降、「軽蔑」までが、「イヤイヤ系」の系列です。
生存戦略としては、不衛生、あるいは毒物などが存在する環境を回避することが原点です。
が、現代社会では、物理的な環境以上に、負担を強いる労務関係や対人関係などが、回避すべき「有害な環境」になっています。
【行動】その状況から身を離そうとする
【特性】不快、弛緩、険悪な表情(鼻の周りのしわ)
【コツ】この感情の自覚は、うつ病の療養上、極めて重要です。
次の項目、「憂うつ」と直結しているからです。
表情は、まさに臭い物を嗅いだ時と同じ。ボディランゲージは、顔、体を対象から背ける動きが典型です。
憂うつ


【状況】嫌悪を生む状況が予想される
【行動】その状況から身を離そうとする
職場の負荷で、うつ病を発症した場合、朝の出勤時に憂うつを感じます。
職場が有害な環境だからです。
その状況から身を離そうとするため、体中で、出勤しようとする行動に抵抗します。
まさに「イヤイヤ系」の感情と行動です。
生存戦略上、ヒトはそのようにプログラムされているのです。
【特性】不快、弛緩、救援を求める表情
【コツ】憂うつの「震源地」である、嫌悪の感情を、しっかり自覚しましょう。
自分は何を有害と感じているのか、それを探ってみましょう。
恐怖★


【状況】生存にとって切迫した危険
【行動】防御または逃走、あるいは援助の要請
【特性】不快、緊張、おでこがこわばった表情
両眉を上げて中央に引き寄せ、目を見開き、まぶたに力を入れ、口角を横に引く。
この表情は、古今東西、ヒトに共通です。
ボディランゲージは、頭、体を後退させる、硬直させる、逃げる、声が高くなる、突然の深呼吸など。
【コツ】この感情は、極めて不快です。
でも、切迫した危険を根本的に解消するためには、その間、この感情と向き合い、この感情に耐える必要があります。
だから、恐怖と不安、どちらかを選べ、と言われたら、ほとんどの方は、不安を選ぶでしょう。
あらゆる手段を講じて、切迫した危険を先延ばしにする。
そして恐怖を軽減させる一方、その代償として、延々と続く不安に甘んじる。
感情リテラシーの目的の一つは、この恐怖という感情、それへの恐怖を、軽減することでしょう。
天気に例えるなら、恐怖は「雷に撃たれること」です。
しかし遠くの雷鳴に、同じ恐怖を抱く必要はありませんね。
特性で示した体の反応に、しっかり注目しましょう。これが、恐怖なんだ、と自覚しましょう。
そして、恐怖、という感情への恐怖に、慣れていきましょう。
うつ病との関連では、「嫌悪」の状況が持続することで、「恐怖」が発信される状況に移行してしまう、という場合があります。
また職場では、上司の恫喝が「恐怖」の状況となる場合もあるでしょう。
不安


【状況】恐怖を生む状況が予想される
【行動】生存競争に必要な警戒の強化
【特性】不快、緊張、救援を求める表情
ボディランゲージは、多彩です。落ち着きがない、または、じっとしている。過呼吸、動悸、発汗、ふるえなどの自律神経症状。
【コツ】感情の中で、不安を実感できる方は多いです。
でも、その「震源地」である恐怖の感情に向き合える方は少ないようです。
不安に対処するには、自分は本当は、何に恐怖を感じているのか、それを探ることがポイントです。
安心★


【状況】恐怖からの解放
【行動】生存競争に必要な警戒の緩和
【特性】快、弛緩、笑顔
【コツ】うつ病ももちろんですが、あらゆる精神疾患にとって、この安心という感情は「万能薬」です。
しかし、上述したように、恐怖という感情の体験を回避し、不安に甘んじるため、安心という感情に達することが、難しくなります。
また、この安心という感情は、イヤイヤ系の感情の系列の、最終的な目的地です。
怒り★


【状況】行動・思考のペースが乱され続ける
驚きが、一時的な乱れであったことと対比的です。
この状況には、さまざまなレベルがあります。
ある日の事故による交通渋滞から、順調な昇進ルートからの理不尽な左遷まで。
いずれにせよ、生存戦略上、有用だったペースが妨害され、ダメージを負っています
【行動】攻撃(実力行使)のアピール
これ以上のダメージを防ぐため、攻撃(ある意味、反撃)に出ます。
ただし、攻撃するには、それなりのエネルギーが必要です。
だからまずは、「これ以上ダメージが続くと、実際に攻撃するぞ」とアピールする。
手をあげる前のクマが、まずは咆える、という状況です。省エネです。
加えて、攻撃に対する反撃のリスクがあります。それも計算にいれた、「まずはアピール」なのです。
その場合、恐怖の感情とセットになり、非常に込み入ったこころ模様になります。
【特性】不快、緊張、威嚇する険悪な表情(力んだ眉と唇)
ボディランゲージは、頭やあごが前に突き出される、荒々しい声。
【コツ】「怒り」の中に、どの程度「恐怖」が混入しているのか。
この分別は、怒りのコントロールに役に立ちます。
怒れば怒るほど、反撃が恐くなり、恐怖が増します。悪循環です。
恐怖の程度が、怒りとは別に自覚できると、必要な範囲でのみ怒れば済むようになります。

また、うつ病では、一般的なうつ病のイメージと異なりますが、
この怒りのテーマが伏在している場合がとても多いです。
一例です。
望まない業務を強制されるため、嫌悪している職場環境。
でも、いろいろな事情で離脱できない。
そのため、自分が本来やりたい業務が乱され続けている
このような状況では、嫌悪の予測としての憂うつの中に、密かに「怒り」が充満していますね。

イライラ

【状況】怒りを生む状況が予想される
【行動】攻撃のアピールの準備、あるいは自制
【特性】不快、緊張、威嚇する険悪な表情
ボディランゲージとしては、落ち着きのなさ。
【コツ】取り組み方としては、不安と似ています。
感情の中で、イライラを実感できる方は多いです。
でも、その「震源地」である怒りの感情に向き合える方は少ないようです。
イライラに対処するには、自分は本当は、何に怒りを感じているのか、それを探ることがポイントです。

軽蔑


【状況】攻撃に値しない相手への怒り
【行動】攻撃のアピールはしないが、相手との関係修復は拒否する
【特性】不快、弛緩、片方の口角を上げる
ボディランゲージは、ふんっという鼻から抜ける言い方。

【状況】怒られることの予測
愛と同様に、「怒る」という感情も、怒る側と、怒られる側、その両方の立場として、体験できる感情です。
【行動】恥の回避
【特性】不快、緊張、赤面

興味(ワクワク)★


【状況】生存にとって有用と予想されるヒト、モノ、環境
※この「興味」以降、「倦怠感」までが、「ワクワク系」の系列です。
【行動】それへの接近と探索
【特性】快、緊張、興奮して刮目した表情
【コツ】どんなに感情リテラシーが苦手な方でも、
また、うつ病などで意欲が低下し、「楽しい」が感じることができなくても、
日常の生活の中で、この感情を関知する事は可能な場合が多いです。
視線をその対象に固定する、という、わずかな行動でも、十分です。
その時、あなたは、実は、ささやかだけど「ワクワク」を感じています。
楽しい(ウキウキ)

【状況】興味が満たされる
【行動】興味の対象を受け入れる
【特性】快、弛緩、笑顔

恋い(ドキドキ)

【状況】興味を生む状況の中でも、特に生殖の対象となるヒト
【行動】それへの接近と探索
【特性】快、緊張、興奮して刮目した表情

倦怠感


【状況】興味が不足している
「ワクワク系」の感情の系列の、最終的な終着点になります。
ワクワクは永遠には続きません。
【行動】興味の対象への接近と探索、の停滞
しかし、次の興味の対象へのアンテナは張られている。
この倦怠感が、次の興味の対象を敏感に感知させることに貢献していると言えます。
【特性】不快、弛緩、だれた表情

ワーク①:振り返り

さて、29種類の感情の中で、この記事では、生存戦略に必要な感情14個を見てきました。
その感情が発信される状況と、その結果の行動とをセットで整理することで、
なんとなく、あいまいで情緒的な雰囲気をまとっている感情というものを、
機能をもった情報であると、再認識してもらえたら、まずは成功です。

それでは早速、その新しい認識を、活用してみましょう。
まずは、過去の経験の振り返りです。
★印の感情(6種類)について、
以下の課題に取り組み、その結果を、ノートにまとめてください。

⚪️今までの人生の中で、その感情を一番強く体験したエピソードを一つ、思い出す。
⚪️その状況と、行動を、記録する。
⚪️その時の感情を一番よく表す、姿勢・表情を、実際に再現し、そこで感じたことを記録する。
・この部分は、特に重要です。
・その感情が、エネルギーとして、自分の身体に出現した時、どんな感触になるのか。
・「胸がつまったような」「頭が沸騰しそうな」など。
・体の特定の部位の、独特な言い回しで表現するしかないような、自分なりの感触を、特定しましょう。
・これが十分に自覚できると、今後、この感触が出現した時、「あ、自分は〇〇の感情を、いま、感じている」と自覚できるのです。
・これが、感情リテラシー上達のための、大きな一歩です。

⚪️エピソードを思い出せない場合は、その感情が発信される状況と類似の状況を探し、記録する。
⚪️その時、なぜ、その感情を体験するに至らなかったか、その理由を考察する。

ワーク②:活動記録表

ワーク①はいかがでしたか?
ワークを終えた頃には、感情を、状況ー感情ー行動のセットで認識するクセがついてくるでしょう。

次は実際に、日々の生活の中で、感情リテラシーのスキルアップに取り組みましょう。
具体的には、以下の2つのポイントで、自分に生じた感情をチェックし、結果を活動記録表に記録しましょう。

⚪️状況が変化したタイミング
・場所を移動した時
・特定の活動の開始と終了時
・自分にとって重要なヒトと接触した時
⚪️「驚く」を体験した時

これらのポイントでは、感情の情報が発信される可能性が高いです。
いままでは、漠然と通り過ぎていたそのポイントに、注意を向ける、そして観察する、という地道な努力ですね。
二週間程度の記録がたまれば、支援者と共有してフィードバックをもらいましょう。

終わりに

お疲れさまでした。
地味なワークですが、感情リテラシーの基礎体力作りには欠かせませんね。
この調子で、残りの感情についても、チャレンジしてみましょう。
続きは、こちら↓
うつ病の治し方:感情リテラシー入門③〜希望編
瑞枝クリニック 配布資料 Ver1.0